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1「OPE台のペキンダック」

獣医ER物語 2020.01.15

カルテナンバー1:「OPE台のペキンダック」

急患は、私の外出中でも待ってくれない。今回の出来事は、ある獣医学会中に起きた。学会会場は、病院から約43マイル離れたところのS市で開催されていた。学会も終わりに近づいたころ、ワイフからの電話が入った(もちろんサイレントモード)。

4歳のメインクーン種のネコ(名前はレイラ)が、昨夜から浅い陣痛が続いているが、一向に子供が生まれる気配がないとワイフは告げた。このままでは、母子共に影響がでるので、一刻も早く帝王切開が必要であると推察された。

Dr.ミッチー・Kは、電話を受け急遽学会会場を後にすることにした。しかし、病院までは約43マイルあり、列車で優に3時間はかかる。SO駅に着くと、ちょうどターミナル行きのエクスプレスがあり、それに飛び乗り病院へと向かった。途中、流れ行く車窓を見ながら、「夜8時30分には病院に着くから」とオーナーであるI.メーリング婦人に電話を入れ、病院で待ち合わせることにした。

病院に着くや否や、母体の状態をチェックし、陣痛促進剤を注射し様子を見守った。だが、様子は変わらず陣痛の気配はない。
メーリング婦人と相談し、帝王切開で胎仔を取り上げることになった。帝王切開にはと母体を助ける側と、取り上げた胎仔を助ける側の最低2人の人間が必要である。幸いにして、メーリング婦人は、何度も胎仔を取り上げた経験があるという。

2人のチームワークをかけたOPEが開始された。母体に全身麻酔がかけられ、そして患部を剃毛、消毒を施した。消毒液は、手術用イソジンを使った。
その時である、メーリング婦人が「ペキンダックみたいですね」と。
確かに…。
毛がなくなり、消毒液で茶色く色が着き、まん丸としたお腹をポッコリと突き出したその様はペキンダックを思わせる光景。さらに滅菌ドレープ(滅菌ドレープとは、手術する患部以外を覆い隠すための滅菌した布)を掛けた状態は、まさに滑稽だった。

これからOPEだというのに、私の緊張は一気にほぐれた。

OPE開始。型どおり切開し、1匹胎仔を取り出しては、本日の助手であるI.メーリング婦人に渡す。彼女は、手馴れたもので次々と出てくる胎仔の臍の緒を切り、蘇生させていく。
彼女は、非常に優秀に私のアシスタントを努めてくれた。
胎仔は全部で4匹。
4匹の子猫は、元気に母親レイラのミルクを飲んでいる。これなら、大丈夫とI.メーリング婦人は帰宅した。

夜11時50分、ひとりOPE器具とOPE室の掃除。
今朝は、6時に起きて学会に行き、そして緊急手術…非常に疲れた1日であった。
しかし、生命の誕生は、実にすばらしい感動を与えてくれる。心地よい疲れである。

そーいえば、ディナーがまだだった。本日のディナーは、ペキンダック?

Dr.ミッチー・Kからのワンポイントアドバイス:

「妊娠・出産」犬の妊娠期間は、58~60数日(個体差でなく、受胎した時期によるため)。猫62~67日(環境状態にも左右されることあり)そのため交配時期を記録して、妊娠期間40日頃に近づいたら、ホームドクターにてレントゲン撮影で胎児数の確認をし、出産に備えてください。

 

不定期更新-by Dr.ミッチー・K


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