猫の心筋症(HCM)
原因がわからないけれど、うちの子、少し前から何か元気がない……。じっとしている時間が多くなった。熱を測っても平熱。血液検査をしても異常なし。 こんな症状に遭遇したことはありませんか?当院でもこの様な症例に遭遇しましたので報告します。
カルテファイル1
動物種:猫
年 齢:2歳
性 別:オス
主 訴:元気がない
症 状:体温38℃。他異常見られず
一般検診:体温平熱。聴診・打診異常なし。視診で唯一、舌の先に皺を認めました。
ここで中医学では、舌は内臓臓器に連結しているため舌の部位によって内臓の異常が把握できます。
心肺系は舌の先端に開竅していると言われており、舌の異常から心肺系の疾患を疑いました。
そこでレントゲン検査を実施しましたが、レントゲン上では異常を確認できないため、エコー(超音波画像診断)検査を行いました。エコー検査により肥大型心筋症と診断しました。

はじめに:心筋症とは
心筋症の獣医学領域における独自の概念は、いまだ確立されていません。したがって、犬猫の心筋症は、人の定義・分類をそのまま用いられているのが現状です。エコー検査の普及でかなり高い精度で心筋症の診断を下す事が可能となってきていますが、しかし、今でも心筋症の最終的な診断は、病理学的検索に委ねられております。 人の心筋症は、95年WHOと人の学会の合同研究会で、心筋症の定義を「心機能異常を伴う心筋疾患」と改め、HCM・DCM・RCMの3型の他に不整脈源性右心室心筋症を追加しました。それに伴って、動物でも同様の定義・分類を用いています。
1.HCM:心筋の肥大
2.DCM:心室腔の拡張
3.RCM:左心室内膜の限局ないし、び慢性線維性肥厚を特徴としており、本病は心内膜に生じた炎症性変化を修復する過程で形成されたものと考えられ、病因については明らかにされていません。
4.不整脈源性右心室心筋症:右室の進行性拡張ならびに収縮低下、右心不全と重篤な不整脈
5.分類不可能型心筋症:上記1~4の分類に当てはまらないもの。分類困難なものです。
6.特定心筋症:従来より二次性心筋症と呼ばれてきたものです。病因または全疾患との関連が明らかな心筋症の総称です。
以上のように心筋症は、発生部位、タイプ、病態が異なり、型によって症状や治療が異なります。
猫の肥大型心筋症(HCM)症例
猫の心筋症の原因は、いまだによくわかっていませんが、いくつかの症例では心筋の虚血(血液がうまく流れなくなる状態)、遺伝性、栄養性、成長ホルモン異常、甲状腺機能亢進などが原因しているといわれております。 心筋症は、心筋(心臓の筋肉)の肥大を起こしてくるため、心筋が厚くなるので内腔(心臓に血液が入るスペース)が狭く、筋肉が厚いため拡張ができず、拡張不全となり、十分な血液を全身に送り込めなくなります。反対に、DCMの場合は内腔の拡張が起り、心筋が広がるため心臓の収縮がうまく出来なくなり、収縮不全をきたします。
次にHCMの臨床症状は、軽症の場合は無症状で数年経過することもあれば、突発性で症状を認め呼吸困難、呼吸が速い、咳、血栓塞栓などと様々な症状を示します。
ですから症状が軽い場合は症状も見られず、あるいは元気がないぐらいで、血液検査、レントゲン検査をしてもわからずに推移してしまいます。
ましてや動物は言葉も話せないため気付いた時にはかなり進行している場合があります。
そこでエコー検査の実施が有用になり、早期発見ができます!
この様に元気がない様な症状が見られ、原因がわからない猫ちゃんがいましたら当院を受診してみてください。
今回は、典型的なHCMのレントゲン写真、進行して水が貯まったレントゲン写真、軽度な症状のレントゲン写真およびレントゲンでは不明のため超音波画像診断(エコー)にて診断した写真を載せてみました。

<症例1:典型的なレントゲン写真(横に寝かせたて撮った写真)>

<症例1:典型的なレントゲン写真(伏せ姿勢で撮った写真)>

<症例2:進行して肺に水が貯まっている(肺水腫)レントゲン写真>

<症例3:進行して胸の中に水が貯まっている(胸水)レントゲン写真>

<症例4:初期症状のためレントゲン写真ではわかりずらい>
