3「元旦の緊急OPE」

カルテナンバー3:「元旦の緊急OPE」

 

獣医師にとって盆や正月はない。なぜなら、今回の物語は大晦日から始まったからだ。

病院は新年を迎えるため休診に入り、スタッフも休暇に入った昼ごろにDr.Kの携帯電話がなった。ミス・キャサリンさんからの電話であった。
キャサリンさんは、7歳になるメスのゴールデン・レトリーバーのノンチと生活している。そのノンチが、どうやら調子が悪そうなのである。

「先生、ノンチが数日前から食欲が落ちていて、本日はまったく食べず、嘔吐しました。どうしたらいいでしょうか」と言う内容であった。

私は、キャサリンに「食べないで吐いているのでは、心配でしょうから来院するように」と話した。30分くらいでノンチは病院にやって来た。

その時、外を見ると小雪が降り始めていた。どーりで、今日は冷えるわけだ。

診察台に乗ったノンチの体は、冷えていると同時に数日間食欲がなかったためか、体重が減少し、また吐いていたこともあり脱水症状が見られた。そこで私は血液検査をすることを話した。

検査結果は、脱水状態と同時に白血球数が異常に高い値を示していた(白血球はバイキン感染や炎症があると増加します)。そしてなによりもノンチにとって致命傷なのは、フィラリア症にも侵されていた。

フィラリア症は、別名犬心臓糸状虫症と言って心臓の中に20から30cm大の虫が寄生することによって起こる心臓の病気である。
そこで、ノンチの心臓の状態を把握するためエコー検査を勧めた。エコーで心臓を診ると肺動脈にはフィラリアの成虫が見られ、また心臓の収縮力は低下していた。

次に、白血球数の増加が気になったため、子宮の確認もエコーで行った。
すると子宮は太く腫れ上がり、液状物が貯留していることが確認された。
これは、子宮蓄膿症が考えられた。

私は、キャサリンさんに心臓の状態のことと子宮蓄膿症の話をした。
キャサリンは、深刻な顔になり、先生どうすれば一番いいでしょうか?と私に問いかけてきた。

まず脱水症状を改善するために輸液の必要性を話した。
そして子宮に膿(ウミ)が貯まっているため、子宮と卵巣の摘出手術を話した。
しかし、ノンチはフィラリアという心臓病を抱えている。そして心臓の収縮力も減退しているので強心剤も同時に注射し心臓の状態も整えてから手術が必要であると説明した。

キャサリンさんは、私の説明を聞いて深刻な表情となったが、すぐに事態を理解し治療を希望した。
血管を確保し点滴が開始され、また強心剤も投与された。点滴が開始されて徐々にノンチは脱水が改善されてきて、少し元気が出てきた。

すでに夜の6時を過ぎたが、外は雪一色の白銀の世界となっており、まさに神聖な年をこれから迎えるんだといわんばかりだ。
そして今年も残すところ数分となる頃、ノンチも元気が戻り私がケージを覗き込むと、しっぽを振るほどになった。

よし、これなら安心だ。
私は、家でワイフと子供が新年を迎えよと待っていたため一時家に戻り、かなり遅めのディナーをとることにした。

A Happy New Year

新年を迎えた朝、ノンチは生気を取り戻し、心臓の収縮力も出てきた。
よし、これなら手術ができる!

私は、キャサリンさんに電話を入れた。
問題は、大型犬に麻酔をかけて一人で全てをこなすのは、まず不可能である。まして病院は休暇中でスタッフはいない。私は、ワイフを助手にすることにしたが、家には冬休みで13歳と10歳になる娘二人と5歳の息子がいた。ワイフと相談の上、娘二人は40マイル離れたY市のワイフの実家に、息子は同市内の私の母に面倒を見てもらうことにした。

準備が出来たところで、キャサリンさんを呼んでワイフとの手術開始となった。ノンチに麻酔がかけられ、患部の毛刈り消毒が施された。

メス!
腹部を切開した。
腹腔内を確認したところ、大きく腫れ上がった子宮が見られた。
エコーで見られた通りの子宮である。
私たちは、丁寧にかつ迅速に子宮と卵巣を取り出し、摘出した。
切開した腹部を縫合し手術は無事終了した。

「キャサリンさん、手術は無事終了しました。」

ノンチの麻酔が覚めたのを確認し、私はしびれを切らしている息子の元へと向かった。息子は、私と昨日から降り積もった雪でそりや雪だるま作って遊びたがっていた。
私が迎えに行くと、やっと一緒に遊べる、パパもう行かないでと言うように私に飛びついてきた。私は時間の許す限り息子と雪遊びを楽しんだ。私たち親子の正月が始まった。

 

Dr.ミッチー・Kからのワンポイントアドバイス:

「子宮蓄膿症について」子宮内に膿が貯留した急性、慢性の化膿性疾患です。これは、発情を繰り返すことによって子宮内にバイキン感染が起こります。いつもより発情時期が長い、おりものが出ている、発情は終了したが元気食欲がない、また飲み水は異常に多く飲むといった症状が現れたら早めに病院に受診し、検査を受けましょう。

 

不定期更新-by Dr.ミッチー・K

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